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TR ORIGIN 第2話「過去1」

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TR ORIGIN 第2話「過去」

-2009年 10月5日 アフガニスタン・タルカン地方-

擱座したフクス装甲兵員輸送車が道を塞いでいた。

「ヴォルフツヴァイからタルカン基地、どうぞ!」

『こちらタルカンHQ。どうした。』

「タリバン軍のアンブッシュだ。助けてくれ。先頭と後方が塞がれた!」

『了解したヴォルフツヴァイ。敵勢力は?』

「不明、不明だ。救援を頼む!」

『了解。耐えろ』



最初の攻撃でタリバンは前方と後方のフクス装甲兵員輸送車を破壊、補給部隊の進路と退路を断った。

現在補給部隊のいる位置は米軍によって破壊された廃墟群でありいたるところが瓦礫で埋められている。

つまりアンブッシュには最適の地形であった。



ジャン・クルーガー伍長は攻撃を受けた時、補給部隊の護衛として前衛3台目のイーグル装甲車に搭乗していた。



分隊長のベルガウ軍曹が武器を持って外へでろと助手席から叫んだ。

全員が武器を手にとって外へととび出すのに10秒ほどだったと思う。

俺は無我夢中に武器を、G36Kを手に飛び出た。

俺たちが護衛している補給部隊はタリバンの対戦車火器による重火力攻撃を受けていた。

「ジャン、ミューラーを連れて補給隊のマイバッハ少佐を保護してこい。他は現状の防衛及び敵勢力への攻撃!マイハイム!銃座に付け!」

今でもベルガウの指示は適切だったと感じている。一介の軍曹であり、当時28歳のこの男は優秀な下士官だった。

俺と新人のラルフ・ミューラーは敵からの銃撃をトラックで防ぎながら補給部隊の隊長であるマイバッハ少佐に会いに行った。

「マイバッハ少佐、護衛隊のクルーガー伍長です。安全を確保しに来ました」

マイバッハ少佐は本来内勤組のひ弱そうな少佐であり、もちろんこんな攻撃を受けたこともない。

ひどく狼狽していた。

「あっ、ああ・・・伍長。状態は最悪なのか?」

「最善を尽くしております、少佐。ここにいてください」

俺はすぐに無線機でベルガウにマイバッハの安全を確保したと伝えた。

『分かった!』

ベルガウの返事の後、ヘリの羽音が聞こえてきた。

タルカンドイツ軍基地に配備されているUH-1だろうと推測した。

『ワルキューレ01からオールヴォルフ、これより攻撃ヘリによる攻撃支援が開始される。20分現状を維持せよ。繰り返す!20分現状を維持せよ』

そんな、そう思ったのは俺だけではなかったはずだ。

マイバッハはふらふらとトラックというカバーから離れてしまった。

「少佐!」

彼はピタリと立ち止まると俺の方を向いてこういった。

「なぜだ、なぜこうなってしまったのだ」

銃弾が彼の頭を引き裂いた。衝撃で黒のベレーが空を舞う。

「少佐がヤラれた!繰り返す!マイバッハ少佐KIA!」

俺が無線で叫ぶとすぐにベルガウが返信してきた。

『お前のせいじゃない!現状維持!繰り返す!現状維持だ!』


3分ほど銃撃戦をしていただろう。

『ワルキューレ01からオールヴォルフ。北西500m地点より敵戦車4両接近!』

「戦車!?」

『T-55と思われる!対戦車戦闘準備!』

その場に居た全員が耳を疑った。

タリバン軍が戦車を持ち出すなどありえないからだ。

『こちらオッズマン大尉だ。対戦車火器は3台目の補給トラックの荷台にある!武器をとれ、ドイツ兵!』

補給護衛部隊を統括するヘルマン・オッズマン大尉が威厳のある深い声で全員を怒鳴りつけるように無線で交信をした。

その無線を聞いて俺は自分がカバーに使っているのがそのトラックであると気づいた。

「ミューラー、援護しろ!トラックからパンツァーファウストを持ってくる!」

「わかりました!」

ミューラーはトラックのカバーからG36Kを瓦礫地帯へと撃ちまくる。

俺はその撃ちまくっている横を通過してトラックの荷台に転がり込んだ。

緑のケースが大量に鎮座している。それはダイナマイトノーベルの刻印が押された工場出荷ロットのパンツァーファウスト3だ。

発射機は使いまわし式であるから発射機のみをケースから取り出して背負い紐で背負った。

弾頭を手に持てるだけ、つまり2本だけ持って外に飛び出た。

かなり近くからキャタピラの地面を削り取る音、ディーゼルエンジンの排気音が聞こえてくる。

たしかに何度もシミュレートはした。ドイツの東が国家人民軍を持っていた時代に入手したT-55を仮想敵として何度も訓練していた。

だが実戦となると話は別だ。

そいつは俺の目の前に姿を表した。

傾斜を意識したお椀形砲塔を装備したアイツが前から2両やってくる。

補給護衛部隊2台目に居たフクス装甲兵員輸送車が狂ったようにMG3を銃座から戦車に撃っているが全く意味は無い。

砲塔が旋回し、105mmライフル砲が唸った。

フクス装甲兵員輸送車は火の手に包まれ、MG3の射手の半身が空に舞ってべしゃっと肉が潰れる音、液体が飛び散る音を出して地面に落ちた。

「クソ、クソ!」

焦っていた俺はパンツァーファウストの照準器をしっかりとT-55に合わせることができなかった。

やっと手ブレが収まり、後方を確認した。

「ファイア!」

対戦車ロケット弾はモーターに点火され、T-55の正面装甲にぶち当たった。

旧世代の戦車、現代兵器の前に敵ではなかった。

T-55は正面を貫通され、内部へとロケット弾頭が到達し爆発した。

お椀形砲塔がドン、という爆発音と共にターレットリンクからずれた。

砲身が砲塔からスッポ抜けて地面に突き刺さった。

「一両撃破!」

俺はすぐさま2射目の用意に入った。

弾頭を取り出して本体へと結合させる。

「ミューラー!予備弾持ってこい!」

「了解!」

あと3両対処しなくてはならないのだ。

2台目のT-55は撃破された先導のT-55を馬力で押しのけてやってきた。

好都合だった。相手は馬鹿か間抜けだ。

T-55の残骸を押しのけようとしている時に2発目を撃った。

弾頭は砲身に直撃し、おそらく砲弾に引火したのだろう、砲塔が大爆発して空にぶっ飛んで車体の横にズドンと落ちる。

『3両目はヴォルフツヴァイ後方より接近中!』

後ろを向くとT-55が1台猛スピードで車列に襲いかかっていた。

ちょうどミューラーが俺のもとまで弾頭を運んできた。

きっかり2発だ。

俺はロケット弾を受け取るとそいつを装填して正面を見せているT-55に撃った。

ロケット弾は狙いより外れてキャタピラにぶち当たって車体を半壊させるに留まった。

「くそ、次弾装填」

俺は新しい弾頭を発射機に差し込んでもう一発撃った。

今度は砲塔に直撃してさっきと同じように空に飛び上がる。

俺はすぐに無線機を偵察しているUH-1に繋いだ。

「撃破!ワルキューレ、もう1台はどこだ!」

『側面からくるぞ!』

「なっ」

ディーゼルエンジンが雄叫びを上げながら瓦礫を踏み越えた。

側面、俺の横にT-55が文字通り飛び出てきたのだ。

そいつは俺の前を素通りしてパンツァーファウスト3が詰まったトラックを蹴っ飛ばした。

もう再装填を許されない。

「ミューラー!逃げろ!」

俺は咄嗟に叫ぶとT-55の側面に登り始めていた。

10年近く経つが今でもなぜ俺が登ったのかはよくわからない。いや、たぶんおそらくはコンバットハイだったのだろう。

T-55側面に飛びついてお椀形砲塔の上に立っていた。

グレネードポーチからDM51手榴弾を一つ掴んでピンを引き抜いた。

戦車の搭乗員ハッチを引き開けると中に居たのは東洋人だった。

聞いたこともない言語で彼らは俺をまくしたてたが、俺はかまわず手榴弾を中に落として蓋を閉じた。

ドンと小さく、しかし響きある爆発音が戦車内に轟いた。




翌日だったと思う。疲弊した俺達はすぐさま式典に呼びつけられて勲章をもらった。

正直そんなものより休息が欲しかった。

基地では戦車10両を素手で撃破したなどと話が膨れ上がっていたし収めるのが大変だった。

だが一番気になることがあった。

それは戦車を撃破した後のことだ。



俺は戦車の砲塔部分の塗装がやけに新しいと思った。

まるで塗り直したかのようだ。

しげしげと見つめるとそれは星形のマークがかつてあったようにみえる。

また車体もロシア語ではない、エキゾチックな文字が彫られていたし第一乗り込んでいたのは東洋人だった。

だがこの事を上官であるオッズマン大尉に伝えると

「俺が司令部に上申しておく」と言ったきりで音沙汰が無い。


今思えばこの時点でオッズマンを疑っておくべきだった。

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